宇多田ヒカルさんの『Utada The Best』についての発言が話題を呼んでいます。ネット上では彼女の言葉に賛同する意見の方が多いようですし、私も「Utada the Bestは私の意志とは全く無関係」とTweetしたこと自体は興味深いし、そのくらいは言ってもいいと思っています(関係者は残念に思うでしょうが)。
が、「予約を考えている人は、少し待ってください」「Utada名義の過去作品を持っている人は、そのbestは買う必要は無いよ、と言いたい」という事実上不買を訴える発言には、正直少し疑問を感じます。
そこまで言っちゃったかヒカルさん!という感じです。
私の端的な感想を言わせて頂くと「気持ちは分かるけれど、恐らく契約上仕方ないのだろうし、Twitterなどのダイレクトなメディアで買わないでとまで言うのは一線を越えていないだろうか。正直現場が気の毒だ」です。
こう思うのは、私がかつてレコード会社に籍を置いていたからかもしれません。
以下、この問題を考える際の参考になるかもしれないレコード会社の仕組みや、今もレコード業界に関わる者としての個人的な感想を、何回かに分けて書いてみたいと思います。
<原盤権のこと>
原盤権とは、簡単に言うと「録音した楽曲を発売する権利」で、レコーディング等音源制作にかかる費用を負担することと引き替えに取得するものです。
現在ではレコード会社だけでなく、アーティスト事務所や音楽出版社などが、出資額に応じて半分、1/3ずつ、という風に分け合って持つのが主流になっています。
ある楽曲をオリジナルアルバムとは別の形で使用する(今回のようなベスト盤を出すとか)際には、全ての原盤権保有者の同意が必要です。
今回の場合は、どうもアメリカのレーベル、アイランド・デフジャムが全ての権利を持っているようです。というのは、所属事務所の代表取締役である父・宇多田照實さんもTwitterでヒカルさんの意見に同調しているからです。つまり事務所の意志が反映されていない=原盤権を共有していないということです。
レコード会社としては、本来はお付き合いを考えると、権利がなくても事務所にお伺いは立てるのが普通です。しかしアイランド・デフジャムとの契約が既に切れている、もしくは切れる予定なのであれば、レーベルはアーティストの顔を立てる必要がないため(今後のお付き合いへの影響を気にしなくていいため)、契約内容だけを根拠にリリースした可能性もゼロではありません。あくまで想像ですが。
もしこういう事態を避けたいのであれば、共同原盤にする道を模索するという手もありましたし、ベスト盤リリース等について契約書に明記しておく必要があったのではないでしょうか。…とはいえそれは理想論であって、果たしてそういうことが政治的・慣習的に可能だったのかどうか、私には分かりません。
次回はレパトア・オーナーという仕組みについて書きます。
>> Utada The Bestについて、雑感 2
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